6月の法話 『周囲と“同(ひとつ)”になる ―「能登半島地震」が教えてくれた御仏の教え―』
―平成19年3月25日(日) 午前9時41分58秒—
石川県輪島市西南西沖40kmの日本海で発生したマグニチュード(M)6.9、最大震度6強を観測した地震は、「能登半島地震」と命名され、人々の記憶に留められました。この地震で大本山總持寺祖院(石川県輪島市)は甚大な被害を受けました。
当時、全国から大勢の方が能登半島に集まり、ボランティア活動に汗を流しました。曹洞宗石川県青年会でも連日に渡り、現地でボランティア活動が展開され、私も会員の一人として、幾度も能登半島に通わせていただきました。この頃の私は、年齢も若く、体力にも自信があったのでしょう、瓦礫の撤去など、少しでも早い復旧を目指して身体を動かすことが何よりも被災された方々を喜ばせることだと思い込んでいました。
しかし、ボランティア活動の内容が肉体作業から被災者のニーズ(要望)聞き取り調査や、行(ぎょう)茶(ちゃ)活動(避難所で生活する被災者とお茶をいただきながら対話をし、心の声に耳を傾けていく活動)へと移行していく中で、“ボランティア=肉体作業”と限定的な捉え方をしていたことが間違いだったのではないかと思うようになっていったのです。「ひょっとしたら、自分がやってきたことは、被災者の心情に思いを馳せることなく、活動する側の都合や考え方を一方的に押し付けるだけのものだったのではないか?」そのことに気づいたとき、私はボランティアを行ずる上で大切なのは、被災者の気持ちを丁寧に受け汲み取りながら、それに応じた言動を発していくことだということを学ばせていただいたのです。それは、仮に、被災者の思いと自分の考えが違っていたとしても、自分の考えなど、さっさと捨ててしまい、被災者に寄り添い、その思いを受け止めていくということであり、言ってみるならば、被災者と“同(ひとつ)になる事”なのです。
本年度の「曹洞宗管長告諭」(https://www.sotozen-net.or.jp/kokuyu)において、曹洞宗管長である南澤道人(みなみざわどうにん)不老閣猊下(ふろうかくげいか)は、道元禅師がお示しになった「同事(どうじ)」のみ教えを日常生活において修行していくことを人々に呼びかけていらっしゃいます。「同事」とは、自分の考えだけを優先したり、執着したりすることなく、周囲と“同(ひとつ)になる”のを意識していくということです。そうやって、誰に対しても、「あなたのことを大切にしていますよ」というメッセージを込めて、差別なく、分け隔てなく関わっていくのが「布施(ふせ)」です。周囲を思い、相手と一つになるべく言葉を発していくことが「愛語(あいご)」です。そして、これと同じ意識を以て、行動していくことが「利行(りぎょう)」です。「布施」・「愛語」・「利行」・「同事」の4つをまとめて「四摂法(ししょうぼう)」と申します。長引くコロナ禍で、人間同士の関係の希薄化に拍車がかかる今だからこそ、心がけておきたいみ教えです。
―令和3年4月6日(火) 午前10時00分00秒―
あれから14年の歳月が流れ、大本山總持寺祖院は多くの人々のお力をいただき、往時の姿に蘇りました。この日、同寺において、復興をお祝いする「能登半島地震復興落慶法要」が営まれ、これを以て、輪島市は震災からの完全復興を宣言しました。
この日、私は、このご法要に参加させていただきました。見事に復興した總持寺祖院の空気を存分に感じながら、14年前の発災時のことが思い出されました。あのとき、私が学ばせていただいた仏のみ教えは、私の人生訓であり、今も変わらず、私の宝物となっています。これからの人生、様々な仏縁とのめぐり逢いの中で、こうした人生訓を積み重ねながら、仏に近づいていきたいと、復興した總持寺祖院の境内にて心新たにしたのです。
宗務所