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今月の法話 2020/10/01

宗務所

10月の法話 「みんな仲良く~利行の行い~」

10月の法話

皆さんこんにちは。
今回は「みんな仲良く」というお題でお話したいと思います。
昨今、テレビニュースやインターネット上で「人種差別問題」やそれを発端とした「暴力事件」、「過激なデモ運動」など、心の痛む事件がよく報じられています。国内では過激な事件までには発展しておりませんが、外国人労働者やインバウンド観光客が増加しており、目を逸らすことのできない問題であるのは間違いありません。人権問題に取り組む曹洞宗としても、率先して声を上げて解決していくべき問題であります。

まず、この問題を紐解いてみますと、「自己の利益」に執着する心が根底にあるのかと思われます。
例えば「自分と他人」「自分の家族と他人の家族」「自分の国とそれ以外の国」などという風に「自己」と「他者」を分け隔てる気持ちがあり、自分に不利益がないようにと振る舞った結果が大きくなり、衝突を生むことになってしまったと思われます。
では、どういう心持ちであるべきかということを、曹洞宗の経典の一つである修証義(しゅしょうぎ)の言葉「利行(りぎょう)」について考えてみたいと思います。

「利行」といいますのは「どんな人に対しても、その人を助け、利益をもたらすようにしよう」という行いであります。“菩提心(ぼだいしん)”つまり仏道を志す際に持つべき他者に尽くす布施(ふせ)・愛語(あいご)・利行・同事(どうじ)という四つの行いのうちの一つです。
 その説明として素晴らしい文言がありますので引用させて頂きます。

原文【愚人(ぐにん)謂(おも)わくは 利他(りた)を先とせば自らが利省かれぬべしと 爾(しか)には非(あら)ざるなり 利行は一法なり 普(あまね)く自他を利するなり】

訳【愚かな人は、他人に利益を与えると自分の利益が失われてしまうと思うでしょう。しかし、そうではなく、人助けというのは自分と他者の区別をなくす行いであり、みんな全てに利益を与えるものなのです。】
 
これを見ますと、自分を含め世界すべての人・モノ・現象は孤立して存在せず、みな関わり合っているという、仏教根本の教え、すなわち「縁起(えんぎ)」という考え方に繋がってくることを実感させられます。
 
 最初に記した問題はスケールの大きなものではありますが、まずは自分の家族に対して、ご近所の方に対して、身近なところから「利行」の実践を行い、その輪を全世界に広めて「みんな仲良く」を実現していけたら素晴らしいことだと思います。


参考:青山社「対訳 修証義」